Hello darkness, my old friend

祖父が山に登りたいと言いだした。○○を上から眺めたい、と。その人は頭山のような顔で身体もずんぐりしており、ほんとうの祖父ではなかったけれど、どうしてか祖父以上に血の親しみを感じた。

祖父はいきなり走り始めた。それを追ううちに、自分が故郷の目抜き通りを走っていることに気づいた。小さな薬局と銀行があるところを道なりに西に曲がり、さらに行くと、橋のたもとに北のほうを見つめている祖父に追いついた。目線のさきには槍の穂先を横に引延ばしたような岩山があった。「サカキヤマだ」と誰かが言ったが、自分には位置からも形状からもそうとは思われなかった。得心のいかないうちに、祖父はまた走り始めた。

再び祖父を追って登り口に着くと、そこに彼の姿はなく(年のわりにやけに速かった)、そこにいた登山客2人がもうとっくに登ってしまったと教えてくれた。思った通り三点支持をするような急登の岩場で、2人は祖父に感心しきりであった。ともかく岩場にとりついた。くぼみや木の根のとびだしたのが都合のいい場所にあり、気分よく登った。前を行くひとに手を踏まれ、後ろから来るひとの手を踏んだ。

眼前に壁のようにのっぺりした急斜面が現われた。愚にもつかない道具を使って愚にもつかない手段を講じたが、どうしても登りきることができなかった。すると、上からぬっと腕がのびてきた。好便とこれにつかまると、するする引き上げられた。上がりきったところは幅50cmほどの狭さで、そこもずるずると引きずられていった。よく見ると、腕の主は自分であった。引きずられていった先には祖父が横たわっており、彼が生きているかどうかは判然としなかった。「閉所恐怖症なんだ」と言いたかったが声になるはずがなく、我々3人(つまり、自分と「自分」と祖父)はそうしてうつ伏したまま、朝が来るのを待った。

いたる、現在。